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フロッピーディスクは磁石で消えるのか。保存の専門家が見直す「常識」

磁石でデータは消えるのか。USBドライブでも保存できるのか。iPRES 2026の研究から、古いフロッピーディスクの読み取りと長期保存を考える。

3.5インチのSamsung製フロッピーディスク
資料写真:Peter Astbury / CC0 1.0 / Wikimedia Commons。圧縮・メタデータ除去、トリミングなし。《青い残像》で使用した実物ではありません。

フロッピーディスクに磁石を近づけてはいけない。

かつて当たり前だったこの注意事項を、実際に確かめた研究者がいる。ディスクの上に磁石を置いたまま3週間。毎日データのチェックサムを確認したが、変化は見つからなかった。

2026年9月、デジタル情報の長期保存を扱う国際会議「iPRES 2026」で、フロッピーディスクの保存にまつわる通説を検証した研究が発表された。

タイトルは Myths, Risks, and Realities of Floppy Disk Preservation。ブリガムヤング大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学図書館などに関わる4人の研究者が、読み取り、清掃、保管、磁気の影響を取り上げている。

問題は、これまでの注意事項がすべて間違っていたということではない。経験則として伝わってきた話のうち、どこまで確かめられているのか。そこを改めて調べようという研究だ。

磁石でデータは消えるのか

共同研究者のRoss Spencerは、10月11日に公開したブログで実験の裏話を紹介している。

磁石をフロッピーディスクの上に置き、3週間動かさずにデータのチェックサムを調べた。しかし、この条件では変化が見られなかった。

ただし、これを「磁石を近づけても安全」と読んではいけない。

1993年に医学誌『Radiology』に掲載された実験では、3.5インチの高密度フロッピーディスクを磁界にさらしている。最大500ガウスではデータへの影響が確認されなかった一方、1000ガウスではデータが消去されたと報告された。

磁界の強さ、距離、当て方によって結果は変わる。Spencerの実験で分かったのは、あくまでその配置ではチェックサムの変化が起きなかったということだ。磁石を動かさなければ安全だと一般化もできない。

昔からの注意には理由がある。しかし、それだけで現実の危険性を正確に説明できるとは限らない。

3.5インチフロッピーディスクに内蔵される薄い磁気ディスク
写真:Peter Astbury / CC0 1.0 / Wikimedia Commons / 圧縮・メタデータ除去(トリミングなし)

専用装置がなければ、古いディスクは読めない?

保存の現場で使われているのが、GreaseweazleやKryoFluxといった専用コントローラーだ。

これらは磁気記録の変化をフラックスデータとして取得できる。通常の読み取りでは扱いにくい特殊な記録形式を解析したり、同じディスクを繰り返し回さずに読み取り結果を検討したりできる。

では、一般的なUSBフロッピーディスクドライブは役に立たないのか。

Spencerはそう考えていない。標準的な3.5インチディスクなら、まずUSBドライブで正常に読み取れるか確認する方法にも意味があるという。

対象が少数の一般的なディスクなら、それで必要なディスクイメージを取得できる場合がある。すべての媒体に最初から専用装置を使う必要はない。

もちろん限界もある。USBドライブでは磁気記録の細部を取得できず、特殊なフォーマットに対応できないこともある。読み取り時の意図しない書き込みを防ぐ配慮も要る。

研究者たちは、磁気的な損傷を受けたディスクについて、復旧ツール「ddrescue」の読み取り回数を2回から5回に増やすことで、取得できるデータが増えた事例も紹介している。

ただし、繰り返せば必ず復旧できるわけではない。傷んだディスクを回転させること自体が、状態を悪化させるおそれもある。

重要なのは、専用装置を使うこと自体ではなく、ディスクの状態と残したい情報に合った方法を選ぶことだ。

フロッピーディスクの磁気記録を読み出すKryoFluxコントローラー
写真:Jeremy Keith / CC BY 2.0 / Wikimedia Commons / リサイズ・圧縮、メタデータ除去(トリミングなし)

ディスクだけでなく、読み取る技術も失われている

この研究と並行して、ケンブリッジ大学図書館が中心となる「Future Nostalgia」というプロジェクトが進められている。

フロッピーディスクのデータだけでなく、それを読み取るための知識を残す取り組みだ。

古いディスクは、機械さえつなげば読めるとは限らない。メーカーや時代によってフォーマットが異なる。ドライブを整備する知識も必要になる。残っている情報は、マニュアルよりも愛好家や技術者の経験の中にあることが多い。

2025年11月には、このプロジェクトから無料のガイド Copy That Floppy! が公開された。ディスクの識別、必要な機材、清掃、ディスクイメージの作成などを扱っている。

保存機関だけで内容を決めたのではなく、レトロコンピューターのコミュニティからも知識を集めている点が興味深い。

読み取り装置が残っていても、正しく扱える人がいなければ記録を取り出せない。失われるのは媒体だけではない。

作品をフロッピーに記録するということ

Still Memoirで制作を進めている《青い残像》では、Sony Mavicaを使用している。撮影した画像を3.5インチのフロッピーディスクに記録する、初期のデジタルカメラだ。

低解像度の画像、限られた記録枚数、ディスクを交換する手間。その制約も制作工程の一部になっている。

ただし、フロッピーを使って写真を撮ることと、写真をフロッピーだけに保存することは別だ。

撮影後の画像は別の記録媒体に移す。データの照合やバックアップを行う。必要ならディスク全体のイメージも作る。元のフロッピーを残す意味は、それでも失われない。

国立国会図書館が2023年に公表した調査報告書でも、媒体の劣化だけでなく、対応する読み取り装置を維持できなくなる問題が指摘されている。

20年以上前のフロッピーディスクが、今日も問題なく読めることはある。しかし、それが10年後も同じとは限らない。

読めるうちに移しておく

今回の研究は、フロッピーディスクが想像以上に丈夫だったと証明するものではない。

保存の現場で広まってきた常識を、実験と実務の両方から確かめ直す試みだ。

専用装置が必要なディスクもあれば、普通のUSBドライブで目的を果たせるディスクもある。磁気の危険性にも条件がある。

そして、研究者たちが今これほど手間をかけて古い媒体を読み取っているのは、もっと早くデータを移せたはずだったという事情もある。

フロッピーがあと何年使えるかを待って確かめる必要はない。

読めるうちに、記録を移しておく。それが最も確実な出発点になる。


参考資料

WRITTEN BY

Kaz Aoi

STILL MEMOIR 編集部。正確な情報と独自の編集視点を大切にします。

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